目次 - 聞書第一 〇〇〇一 武士道の大意を言下に答へ得る人は少ない、油断千萬の事 〇〇〇二 道は死ぬ事、毎朝毎夕常住死身になれ、家職を仕果す 〇〇〇三 不調法でも、只管主人を歎く志さへあれば御賴み切りの被官 〇〇〇四 胸に四誓願を押立て、私を除いて工夫すれば外れはない 〇〇〇五 我が智慧計りでは失敗する、叶わぬ時は智慧ある人に談合せよ 〇〇〇六 古人の金言仕業を覺ゆるも我を立てぬ爲、よく人に談合せよ 〇〇〇七 相良求馬は御主人と一味同心に勤めたる者、一人當千の士 〇〇〇八 石田一鼎の慧眼、相良求馬外何某の末路を言い當つ 〇〇〇九 一人當千となるには善悪共に主人と一味同心する事 〇〇一〇 道具仕舞物の取合ひは見苦し、鼻の先許りの奉公 〇〇一一 山崎蔵人は一生仕舞物を取らず、これが奉公人の嗜 〇〇一二 我が身を擲ちさへすればすむ、今はすくたれ腰抜慾深ばかり 〇〇一三 御返進物火中物等の整理、並びに指南一通口達の條々 〇〇一四 人に意見をし、諸人一味同心に主君の御用に立つが大慈悲 〇〇一五 浪人しても上を怨むな、我が非を知らねば歸參出來ぬ 〇〇一六 山本常朝若年の頃、澤邊平左衛門を介錯して褒めらる 〇〇一七 人中で欠伸やくさめをするのは不嗜、出たら知れぬ様にせよ 〇〇一八 客に行かばよき客振り、飽かれもぜず早くも歸らぬように 〇〇一九 四誓願の琢き上げ、武士道 忠 孝 人の爲の本義を會得せよ 〇〇二〇 その人の恥にならぬ様に、その場をよき様にするのが侍の仕事 〇〇二一 前方に極め置くが覺くの士、穿鑿せぬは不覺の士 〇〇二二 近年は浪人切腹の跡も行捨てたり、國學も忘れられ勝ち 〇〇二三 酒は公界物、打上がり綺麗にしてこそ酒、酒に人の心も見える 〇〇二四 少々は見のがし聞きのがしある故に下々は安穩である 〇〇二五 心安い人も慇懃に取合ふが侍の作法、恥じしむるは作法でない 〇〇二六 損さへすれば相手はない、堪忍してもひけにはならぬ 〇〇二七 石井又右衛門の器量、馬鹿になつても本心を違へず 〇〇二八 當番御目付山本五郎左衛門抜刀して火事場の門を開けさす 〇〇二九 事にあぐまぬが武士、字は紙一ぱいに一字、書き破ると思うて書け 〇〇三〇 若殿様の草紙讀み、「聞き手がすくなくなれば讀みにくい」 〇〇三一 毎朝拜の仕様は先づ主君 親、それより氏神守佛とせよ 〇〇三二 氣前を見せ伊達する心でないと、時宜に叶はぬ事がある 〇〇三三 金立山の雨乞神事浮立に不吉の喧嘩で權現の御祟り 〇〇三四 微細に事々を知つた上で打任せると萬事能く治る 〇〇三五 生きながら幽靈となつて二六時中主君を守り國家を固めよ 〇〇三六 名醫松隈享庵の眼療治、男の脈と女の脈との取替へ 〇〇三七 山本常朝出家後の述懐「よくもばけ濟ましたもの」 〇〇三八 禁酒は酒癖が悪いかと思はれる、二三度すてゝ見せるが良い 〇〇三九 無念即正念、道は一つ、純一になる事は功を積まねば出來ぬ 〇〇四〇 今時の利口者は智慧で紛らかす、純なる者は素直である 〇〇四一 人は得意な方に老耄するもの、老人は他出せぬがよい 〇〇四二 まぼろしの世の中、世界は皆からくり人形である 〇〇四三 不分際の諫言は却つて不忠、其の人の思附にして言はせよ 〇〇四四 碁にも脇目八目、道に達するには念々知非、人に談合する事 〇〇四五 劍道修行に果てはない、昨日よりは今日と一生日々仕上ぐる事 〇〇四六 直茂公壁書「大事の思案は輕く」とは平素思案を定め置く事 〇〇四七 道とは我が非を知る事、念々に非を知つて一生打置かざる事 〇〇四八 曲者志田吉之助の戯れ、 生きたまがし を聞き誤るな 〇〇四九 上方言葉は無興千萬、御國では田舎風の初心が重寶 〇〇五〇 誤ある者を捨てるな、誤の一度もない者は却つて危い 〇〇五一 中野數馬、科人詮議の時相當の罪科より一段づゝ輕く申し出づ 〇〇五二 主君の御誤を直すが大忠節、若年の時の御守が大事 〇〇五三 柳生流の抜出しを見習ふに及ばぬ、鍋島の刀は落差 〇〇五四 鍋島光茂 綱茂父子元旦の御目見に、小姓不覺の一言 〇〇五五 打返しは踏懸けて切殺さるゝ迄、赤穂義士の敵討ちは延び延び 〇〇五六 逼迫にさへあれば疵は附かぬ、富貴になりたがるが心が疵 〇〇五七 人前で高言を吐くな、「侍たる者は先づ禮儀正しきこそ美しきけれ」 〇〇五八 忠孝に背きたる者は置所なし、親の氣に入る様にと氏神に祈れ 〇〇五九 一家を立つるな、常に我が非を知つて修行する所に道はある 〇〇六〇 山本神右衛門の敎訓「一方見れば八方見る」其他の條々 〇〇六一 活きた面は正念のとき、萬事をなす内に胸に一つ出來る物がある 〇〇六二 寄親組子は親子同然、寄親を離れては出世も思はぬ 〇〇六三 武士の身嗜は伊達や風流の爲でなく、常住討死の覺悟から 〇〇六四 石田一鼎の教訓「人のよき事計りを選び立てゝ手本にせよ」 〇〇六五 大事の手紙書附は途中も手に握つて行き、直ぐに渡せ 〇〇六六 二六時中主君の午前に居ると思へ、休息の間もうかうかするな 〇〇六七 堪忍が第一、但しこゞぞと思ふ時は手早くたるみなき様に 〇〇六八 酒は先づ我が分量を覺え飲過ぎぬ様に、酒座では氣を抜かすな 〇〇六九 身の分際に過ぎた事をする者は、遂には逃亡もする。 〇〇七〇 骨を折つて藝者になるのは惜しい、多能なる者は下劣に見える 〇〇七一 役を仰付けられても慢心するな、浮氣でゐると仕損じがある 〇〇七二 學問には過失が出來る、一行ひを見ても我が非を知る爲にせよ 〇〇七三 武士は何時も勇み進みて物に勝ち浮ぶ心がないと用に立たぬ 〇〇七四 隠岐國より還幸の時、後醍醐天皇の勅諚と楠木正成の奉答 〇〇七五 駈落者追手氣轉の挨拶「朋輩を待ち兼ね麁相仕り候」 〇〇七六 大詮議の時頭取を討果すべき覺悟で、其の理由を表明す 〇〇七七 役所などでは取込みの時ほど静かにするのが侍の作法 〇〇七八 貰ひ物も度重なれば無心になる、人に用をいはぬがよい 〇〇七九 俄雨も初から思ひはまつて濡れる心に苦しみがない 〇〇八〇 萬づの藝能も武道奉公の爲にすれば用に立つ、藝好きになるな 〇〇八一 内で廣言を吐きながら事に臨んで違背する者が多い 〇〇八二 弟子を取りたければ毎日竹刀を手馴らす事一事三昧 〇〇八三 武士は平生にも人に乗越えたる心でなくてはならぬ 〇〇八四 取手は下になると負けるはじめに勝つが始終の勝ち 〇〇八五 子の育て様、幼な子はだまさず怖氣附かせず強く叱らずに 〇〇八六 人に會はゞ片時も氣の脱けぬ様に、平生の覺悟が大事 〇〇八七 無實の切腹仰付けられても、一人勇み進むこそ御譜代の家來 〇〇八八 藝ある者は鍋島侍ではない、藝能の害を知れば諸藝も用に立つ 〇〇八九 風體は鏡を見て直せ、口上の稽古は家庭の物言、手紙は案文 〇〇九〇 過つて改むるに憚るなかれ、猶豫なく改むれば誤忽ち滅す 〇〇九一 手跡も堅くならぬやうに、此の上に格を離れた姿がある 〇〇九二 奉公人の打留は浪人か切腹に極りたると覺悟せよ 〇〇九三 役儀を危ぶむ者はすくたれ、身に備えれば仕損ずる事もある 〇〇九四 人の病気や難儀の時大方にする者は腰抜、不仕合せには一層親切に 〇〇九五 盛衰は天然の事、善悪は人の道、されど教訓は此の外 〇〇九六 山本前神右衛門、不行跡の召使をも歳暮まで暇を出さずに使ふ 〇〇九七 鍋島次郎右衛門切腹に四段の意見、先ず外聞が第一 〇〇九八 侍の一言金鐵よりも堅い、と諸岡彦右衛門、主君に神文を拒む 〇〇九九 中野將監切腹介錯の時、御目付石井三郎太夫見事の仕儀 〇一〇〇 山村造酒切腹一通りの事、預り物御改 番付其の外 〇一〇一 お抱者には心得が要る、御譜代の者は主君の御爲を思ふ 〇一〇二 何事にも願ひさへすれば願ひ出すもの、松茸も檜も願力 〇一〇三 人相を見るは大將の専要、正成湊川一巻の書は眼ばかり 〇一〇四 物に迷ふな、天變地異に迷ふ心から自然悪事も出來て來る 〇一〇五 張良と黄石公、源義經の故事も兵法一流を創めるため 〇一〇六 御仕組二番立には不承服、それが不届なら切腹も幸 〇一〇七 山本常朝、利發の顔附を直す爲一年間引籠り、常に鏡を見て直す 〇一〇八 火急の場合に分別の仕様は四請願に押當てゝ見ること 〇一〇九 目付役は上に目を付けよ、下々の悪事摘發は却つて害になる 〇一一〇 諌言は外に知れぬ様に、主人の非を顯す諫言はわるい 〇一一一 勘定者はすくたるゝもの、死ぬ事を好かぬ故すくたるゝもの 〇一一二 追腹御停止は残念、御慈悲過ぎては奉公人の爲にならぬ 〇一一三 武士道は死狂ひ、分別が出來ると早後れる、忠孝も此の内 〇一一四 志田吉之介が言葉の裏「残らぬ場なら生きたががまし」 〇一一五 大難大變に逢うて動轉せぬはいまだし、歡喜踊躍して勇み進め 〇一一六 名人も人我も人、何しに劣るべきかと打向へば道に入る 〇一一七 武士は後れになることを嫌へ、假初にも臆病な事をいふな 〇一一八 何より一言が大事、かねての物言で人の心が知られる 〇一一九 内外膝を崩さず、物言はねばならぬ事は十言を一言で濟ます 〇一二〇 何ぞ人が人に劣るべきや、病死も二三日はこたへる 〇一二一 分別も久しくすればねまる、武士は七息に分別せよ 〇一二二 何の能があつても人の好かぬ者は役に立たぬ、人に好かれよ 〇一二三 諸人と懇意にするは諫言の階、我が爲にするのは追従 〇一二四 善き被官を仕立つるが忠節、人を以て御用に立つるは本望 〇一二五 一家一族の不仲は欲心から、主従仲悪しき事のないが證據 〇一二六 若い内の立身は効がない、五十位からしあげたがよい 〇一二七 七度浪人せねば誠の奉公人ではない、人は起上り人形の様に 〇一二八 蝮蛇は七度焼いても本體に返る、我は七生迄も御家の士に 〇一二九 志ある侍は諸朋輩と懇意にする、それは自然の時一働きする爲 〇一三〇 部下には平生にも言葉をよくして勵ませ、兎角一言が大事 〇一三一 一飯を分けて下人に食はすれば人は持たるゝもの 〇一三二 曲者は頼もしきもの、人の落目や難儀の時、頼もしするのが曲者 〇一三三 歸参者の心構へ、見ず言はず動かずの心据わりが肝要 〇一三四 諷刺は災いの基、口を嗜む者は用ひられ刑戮をも免かる 〇一三五 神文には深き秘事がある 〇一三六 中野數馬、七度家臣の助命を諫言して終に聞入らるゝ 〇一三七 我が上を人にいはせて意見を聞くのは人に超越する所以 〇一三八 純一無雜、まじり物があつては道でない、奉公武邊一片になれ 〇一三九 物が二つになるのが悪い、武士道一つで他に求むるな 〇一四〇 歌の讀方は續けからテニハが大事、不斷の物言に氣を附けよ 〇一四一 「この一言が心の花」當座の一言で武勇顯る、治世の勇も詞 〇一四二 假にも弱氣はいはぬと覺悟せよ、假初事にも心の奥が見える 〇一四三 何事も成らぬ事はない、一念起こると天地をも思ひほがす 〇一四四 「禮に腰折れず恐惶に筆つひえず」別隔てなく禮々しきがよい 〇一四五 「内は犬の皮、外は虎の皮」士は外目を嗜み内に始末せよ 〇一四六 藝能は上手な人は只一偏に貧著する爲で何の役にも立たぬ 〇一四七 人に意見を頼み、我が非を知つて道を探促する者は御國の寶 〇一四八 四十より内は強く、五十になる頃からおとなしいのがよい 〇一四九 取合ひ話は夫れ相應がよい、善い事も不相應な話は興が無い 〇一五〇 御前近き忠義の出頭人には親しくせよ、何事も皆主人の御爲 〇一五一 人の意見は深く請入れ、云ひやすい様にして意見させよ 〇一五二 諫言の意見の仕様は和の道、熟談でなければ用に立たぬ 〇一五三 教訓に従ふ人は稀、道を知つた人には馴れ近づいて教訓を受けよ 〇一五四 名利薄き士は多分似面非者、高慢して今日の用にはたたぬ 〇一五五 大器は晩成、奉公も急ぐ心があると輕薄になつて後指さゝれる 〇一五六 役を手に入れ、毎日主君の御前と思うて大切に勤めよ 〇一五七 氣に食わぬとて役を斷るは逆心同然、理非に構はず畏まるべし。 〇一五八 楠正成兵庫記に曰く「謀略にも降參はせぬもの」 〇一五九 奉公人は唯奉公に好きたるがよし、心ならず仕損ずるは戰死同然 〇一六〇 役儀を見立て好みして我が爲に勤むる者は滅亡する 〇一六一 常に武勇の人に乗越えんと心掛け、何某に劣るまじと思へ 〇一六二 戰場では人に先を越させるな、死骸は敵に向くやうに 〇一六三 諸人一和、自然の時の事を思ひ出會ふ度毎によく會釋せよ 〇一六四 人より一段立上りて見よ、志深き者は欺さるゝが嬉しきもの 〇一六五 利發で萬事を押附ける、根本を見届ける力の人がない 〇一六六 爲になる話を聞く人がない、一ぱいに話すと囘される 〇一六七 老耄は得方にするもの、山本常朝殿様十三年忌限りに禁足 〇一六八 新義には悪事が出來る、巧者の衆は悪事の基 〇一六九 枝葉の事が結句大事、少しの事にも振りの善悪がある 〇一七〇 四十にして惑はずとは孔子ばかりでない、賢愚共に功が入る 〇一七一 敵を討取つたよりも、主君の爲に死んだが手柄、佐藤繼信が手本 〇一七二 一日の事を案じて見れば云ひ損ひ仕損ひの無い日は無い 〇一七三 書物を讀むには腹で讀むがよい、音讀すると聲が續かぬ 〇一七四 順境には自慢と奢りが危險、よき時に進む者は悪しき時草臥れる 〇一七五 忠臣は孝子の門に尋ねよ、孝行に精出す人は稀である 〇一七六 物を書くにも紙と筆と思ひ合ふ様に、はなればなれになるな 〇一七七 殿様の文庫から書物を出す時に、蓋を明けると丁子の香 〇一七八 君父の御爲又諸人子孫の爲にするが大慈悲、慈悲は智勇の本 〇一七九 奉公人の利發なのはのだゝぬ、けれどもふうけよりはまし 〇一八〇 衆道の情も一生一人、武人は二道せずに武道に勵め 〇一八一 衆道の心得は「好いて好かぬもの」、命は主君に奉るもの 〇一八二 御小姓中島山三、百式次郎兵衛方に駆込み心底を見て契る 〇一八三 石田一鼎曰く、「善き事とは一口にいへば苦痛をこらふる事」 〇一八四 大人は詞すくなきもの、日門様返言は只「丹後守へよき様に」 〇一八五 四十迄は強みが第一、過ぎても強みなければ響きがない 〇一八六 中野數馬、組衆病氣の時は御城よりの歸途毎日これを見舞ふ 〇一八七 旅先から細々と手紙、この心入れが人より上の所 〇一八八 武士の意地は過ぐる程に、仕過すと思へば迦れがない 〇一八九 時機を逸するとだるみが出來る、武道は率忽に無二無三に 〇一九〇 十三から六十までは出陣、それ故古人は年を隠した。 〇一九一 側近者の様子で主君が知れる、諫言は即時、落魄者を憐め 〇一九二 清廉も眞の志からせねば初心に見える、踏張れば名を取る 〇一九三 大事には身を捨てゝ懸れ、よく仕ようと思へば仕損ずる 〇一九四 殿様を大拙に思ふ事は、我に續くものはあるまい 〇一九五 奉公は好き過ぎて過有るが本望、忠の義のと理窟は入らぬ 〇一九六 先祖の善悪は子孫の請取人次第、悪事をも善くなすが孝行 〇一九七 縁組に金銀沙汰は浅ましい、理を附けては道は立たぬ 〇一九八 科人は不憫な者、亡き後には少しなりともよき様に云ひなせ 〇一九九 御用に立ち度いといふ眞實さへ強ければ不調法者程がよい 〇二〇〇 仕合せよき時の用心は自慢と奢り、常一倍に用心せよ 〇二〇一 兼々寄親に入魂せよ、身體一つで駈出しさへすれば濟む 〇二〇二 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事