聞書第四 〇四四四 鍋島直茂、勝茂に御仕置者成敗に切柄を用ふるを戒む 原文 一、直茂公、或時御本丸へ御出でなされ候に、御通筋にて、刀に切柄を仕はめ申し候を御覽なされ、「それは何に成り候や。」と御尋ねなされ候に付て、「明日御仕置者御座候に付、御腰物試し申し候切柄にて御座候。」と申上げ候。直茂公仰せられ候は、「信濃守は人を切られ候時、切柄をはめ候て切り申され候や。我等などは終に左様の事したる事これなく候。」と御意なされ候。此の段、勝茂公聞召され、「御尤もの事、不調法の仕方。」と仰せられ、悉く切柄御のけさせ、翌日御仕置者、水ヶ江にて(後は神代殿屋敷に成り候)御前に引出し、縄を解き候て、迯げ延び候はゞ御助けなさるべし。と仰せられ候故、走り出で候を、抜打に御切り遊ばされ候。この事、直茂公へ誰か申上げ、「見事に遊ばされ候。」と申し候へば、御笑ひなされ、「これは我等切柄の事申し候故にてあるべし。」と仰せられ候由。
聞書第四 〇四四四 鍋島直茂、勝茂に御仕置者成敗に切柄を用ふるを戒む 現代語訳 一、直茂公jは、或る時御本丸へ御出でなされ、お通りがかりに、刀に切柄をはめているのを御覧なされ、「それはなんに使うのだ。」と御尋ねなされたので、「明日、御仕置者がございますので、御腰物を試す切柄でございます。」と申上げた。直茂公が仰せられたことには、「信濃守は人を切られる時に、切柄をはめて切申すのか。我などは終ぞそのような事はしたことが無い。」と御意なされた。この段を、勝茂公が聞し召され、「御尤もな事、不調法なやり方だった。」と仰せられ、ことごとく切柄をのけさせ、翌日の仕置者は、水ヶ江にて(後には神代屋敷に成った)御前に引出し、縄を解いて、逃げ延びれば御助けなさるとの旨仰せられたので、走り出したのを、抜き打ちにて御切遊ばされた。この事、勝茂公へ誰かが申上げ、「見事でございました。」と申上げたところ、御笑いなされ、「これは我が切柄の事を申したからだろう。」と仰せられたそうだ。