聞書第四 〇四〇六 鍋島勝茂の機略「九州者は臆病魂一つ足り申さぬ」 原文 一、勝茂公御年若の時分、何方に候や御大名方數人御一座の折、どなたか、「九州者は魂が一つ足らぬと申す事世間に申扱ひ候。」と御申し候。御一座の衆、勝茂公の御座候事御氣附これなく候て、「誠に左様に申す事の候が、何としたる事にて候や。」と御雑談にて候。公御進み出で仰せられ候は、「これに九州者罷在り候。御評判の通り九州者は魂一つ不足に御座候事、たしかに覺え御座候。」とあらゝかに仰せられ候。御一座の衆、そと御無興にて、「誠に信濃守殿は西國育ちにて御座候。御覺え御座候と仰せられ候は如何の事に候や。」と御申し候。公仰せられ候は、「臆病魂一つ足り申さず候。」と御取合ひなされ候由。
聞書第四 〇四〇六 鍋島勝茂の機略「九州者は臆病魂一つ足り申さぬ」 現代語訳 一、勝茂公が御若年の時、どこかで御大名方が数人で御一座にて居られた折、どなたかが、「九州者は魂が一つ足りないという事が世間で言われている。」と申された。御一座の衆は、勝茂公がいらっしゃった事にお気づきでなく、「誠にその様に申す事があるが、どうした事か。」と御雑談をなされた。公が御進み出て仰せられたことには、「ここに九州者が居ります。御評判通り九州者は魂が一つ不足している事、たしかに覚えがあります。」と高らかに仰せられた。御一座の衆、そっと御無興となって、「誠に信濃守殿は西国そだちでございましたな。御覚えがあると仰せられたのはどういう事ですか。」ともうされた。公がおおせられたのは、「臆病の魂が一つ足りません。」と御答えなされたそうだ。