聞書第三 〇三六三 鍋島直茂の一言、御城密通仕置者の幽靈を消滅せしむ 原文 一、三の御丸にて密通仕り候者御詮議の上、男女共に御殺しなされ候。其の後、幽靈夜毎御内に現れ申し候。御女中衆恐ろしがり、夜に入り候へば外へも出で申さず候。久しく斯様に候故、御前様へ御知らせ仕り候に付て、御祈祷、施餓鬼など仰付けられ候へども相止まず候故、直茂公へ仰上げられ候。公聞召され、「扨々嬉しき事かな、彼の者共は首を切り候ても事足らず、にくき者共にて候。然る處、死に候ても行く所へも行かず、迷ひ廻り候て幽靈になり、苦を受け、浮び申さゞるは嬉しき事也。成程久しく幽靈になりて居り候へかし。」と仰せられ候。其の夜より幽靈出で申さゞる由。 慶長十一年丙午、公上方御留守の間に密通露顯、御歸國の日これを捕へ候。其の内慶加と申す坊主取損じ、御蔵に入り、戸を立て切籠る。これに依り牟田茂齋刀を差さず、内に入りて面談し、和議を以て搦め取り候。女中は乳人おとら お千代 お亀 松風 かるも おふく あいちや、合わせて八人也。男は中林清兵衛 同勘右衛門 三浦源之丞 田崎正之助 慶加 七右衛門、合わせて六人也。本庄若村の廟にて成敗仰付けられ候。
聞書第三 〇三六三 鍋島直茂の一言、御城密通仕置者の幽靈を消滅せしむ 現代語訳 一、三の丸にて密通した者を詮議の上、男女ともに処刑した。その後、幽霊が夜毎に城内に現れた。御女中衆が恐ろしがり、夜になったら外へも出なくなった。長くこのような状態だったため、御前様へ御知らせし、御祈祷、施餓鬼などを仰せ付けられたが解決しなかったので、直茂公へ報告が上がった。公は聞し召され、「さてさて、嬉しい事だ。かの者共は首を切っても事足らず、憎き者だ。然る所、死んでも行くべき所へも行かず、迷い廻って幽霊になり、苦を受け、浮かばれないのは嬉しい事だ。なるほど長く幽霊になって居れ。」と仰せられた。その夜から幽霊は出なくなったそうだ。 慶長十一年丙午、公が上方留守の間に密通が露見し、御帰国の日にこれを捕えた。その内慶加と申す坊主を取り逃がし、御蔵に入り、戸を立てて立て篭もった。そのため牟田茂齋が刀を差さず、中に入って面談し、和議を以てからめ捕った。女中は乳人おとら、お亀、松風、かるも、おふく、あいちや、の合わせて八人だった。男は、中林清兵衛、同勘右衛門、三浦源之丞、田崎正之助、慶加、七右衛門、の合わせて六人である。本庄若村の廟にて成敗を仰せ付けられた。