聞書第一 〇二〇一 兼々寄親に入魂せよ、身體一つで駈出しさへすれば濟む 原文 一、武具を立派にして置くは、よき嗜みなれども、何にても數にさへ合へば濟む事也。深堀猪之助が物具の様なもの也。用意銀なども、大身の人持などは入る事也。岡部宮内は、組中の人數程袋を作り、名を書附け、銘々相應の軍用銀入れ置き申され候由。斯様に嗜み候事、奥深き事也。小身者などは、その期に用意なくば、寄親に頼みはごくまれも濟むべし。さる程に、兼々寄親に入魂して置くべし。御側の者は、殿に附きてさへ居たらば、用意などなくとも濟むべき事也。何某は大阪夏陣の時、灰吹十二匁持ちて多久圖書殿に附きて罷立たれ候。唯早々駈出しさへすれば濟む事也。斯様の世話も、のけたるがよきと覺えたり。
聞書第一 〇二〇一 兼々寄親に入魂せよ、身體一つで駈出しさへすれば濟む 現代語訳 一、武具を立派にしておくことは、良い嗜みであるが、何でも数さえ合えば済む。深堀猪之助の物具の様なものだ。用意銀なども、出世して家来を持っている者にとっては必要だ。岡部宮内は、組中の人数分の袋を作って、名前を書き付け、銘々に相応の軍用銀を入れて置いているとの事だ。この様に嗜むことは、奥の深い事だ。小身者などは、その時に用意がなければ、寄り親に頼めばごく稀になら済ます事が出来る。そのような程に、普段から寄り親と親しくして置くべきだ。御側の者は、殿に付いて居たら、用意などは無くても済むだろう。何某は大阪夏の陣の時、灰吹銀を十二匁も持って多久図書殿について戦場に立った。ただ早々に駆け出しさえすれば済む事だ。この様な世話も、しない方が良い。