聞書第一 〇一九三 大事には身を捨てゝ懸れ、よく仕ようと思へば仕損ずる 原文 一、我が身にかゝりたる重きことは、一分の分別にて地盤をすゑ、無二無三に踏破りて、仕てのかねば、埒明かぬもの也。大事の場を人に談合しては、見限らるゝ事多く、人が有體には云はぬもの也。斯様の時が、我が分別入るもの也。兎角氣違ひと極めて、身を捨つるに片附くれば濟む也。此の節、よく仕ようと思へば、早迷ひが出來て、多分仕損ずる也。多くは味方の人の此方の爲を思ふ人より轉ぜられ、引きくさらかさるゝ事あり。出家願の時の様なる事に候也。
聞書第一 〇一九三 大事には身を捨てゝ懸れ、よく仕ようと思へば仕損ずる 現代語訳 一、自分の身に降りかかる重大な事は、一つの判断で地盤を据えて、無二無三で踏み破って、やってのけなければ、埒が明かない。大事の場面で人に相談しては、見限られることが多く、人が親身には話してくれないものだ。この様な時が、自分の判断が必要な時だ。とかく気違いになる時と見究めて、身を捨てるように片を付ければ済む。この時に、上手くやろうと思えば、すぐに迷いが出て、たいていは失敗する。多くの場合には味方の人のこちらの為を思ってくれる人によって転ばされ、引き留められる事がある。出家願いを出す時の様な事だ。