聞書第一 〇一九二 清廉も眞の志からせねば初心に見える、踏張れば名を取る 原文 一、何某、今の役にて音物を受けず、其の上返したる時、據所無くして家來共が潜かに留置くも心許なしとて、時々に手形をとらせ候由。其の外、一惣取入、云入、賴事ならず、今、日の出のきけ役と、佐嘉中取沙汰の由に候。初心なる事にて候。欲深にはましなれども、眞の志にはあらず、我が身立ち候仕方也。今時、此の分する衆もなき故、沙汰をすると見えたり。少し踏張れば、名を取る事などは安きもの也。欲は内心に離れ、目立たぬ様にするが、ならぬもの也。
聞書第一 〇一九二 清廉も眞の志からせねば初心に見える、踏張れば名を取る 現代語訳 一、何某が、今の役職についてからは、贈り物を受け取らず、その上に返す時にも、やむを得ない事情で家来が留め置いてしまう事も心配して、時々受け取りの証文などを取らせた。そのほか、一切の取り入り、言い入り、頼み事を受け付けず、今では、のぼり調子の敏腕として、佐賀中で取り沙汰されている。しかし、うぶである。欲深よりはましだが、真の志ではなく、自分の身を立てるやり方だ。今時、この様な事をする者達も居ないので、取りざたされていると見える。少し踏ん張れば、名を上げる事などたやすい。欲を内心から遠ざけ、目立たないようにする事こそが、なかなかできない事だ、