聞書第一 〇一九一 側近者の様子で主君が知れる、諫言は即時、落魄者を憐め 原文 一、或人覺悟の體覺書きに、主君の身邊勤むる者は別けて身持ち覺悟愼むべきこと也。御側の者の様子を見て、主人のたけを人が積るもの也。又諫言は時を移さず申上ぐべきこと也。今は御機嫌悪し、序でになどと思うて居る内に、不圖御誤もあるべきこと也。又科人をわろく云ふは不義理の事也。仰出で濟みて後も、其の者に理を附け、少しづゝもよき様に云ひなせば、歸参も早きもの也。又仕合せよき人には、無音しても苦しからず、落ちぶれたる者には随分不憫を加へ、何とぞ立直す様に致すべきこと、侍の義理也と、これあり候也。
聞書第一 〇一九一 側近者の様子で主君が知れる、諫言は即時、落魄者を憐め 現代語訳 一、ある人の覚悟の覚書に、主人の身辺で勤める者は、とりわけ身持ちを覚悟し慎む事、とあった。御側の者の様子を見て、主人の人物の大きさを人は見積もるものだ。また諫言は後に回さずにすぐ申上げるべきである。今は機嫌が悪い、他の用のついでになどと思っている内に、ふと御誤りもあるかもしれない。また罪人を悪く言うのは不義理である。処分が済んだ後でも、その者をかばって、少しずつ良い様に言えば、帰参も早く叶うだろう。また、順調な人には、御無沙汰してもかまわないが、落ちぶれた者には十分に不憫に思い、何とか立て直すようにするべきであることは、侍の義理である、と書いてあった。