聞書第一 〇一七五 忠臣は孝子の門に尋ねよ、孝行に精出す人は稀である 原文 一、忠臣は孝子の門に尋ねよとあり。隨分心を盡して孝行すべき事也。亡き後にて残り多きことあるべし。奉公に精を出す人は自然にはあれども、孝行に精出す人は稀也。忠孝と云ふは、無理なる人、無理なる親にてなくばしれ知れまじき也。よき者には他人も懇にする也。松柏は霜後に顯るゝとなり。元政法師は夜明けに魚の棚に行きて、苞を衣の内に隠し、母に進められたりとあり。案じて見ても、常態のことにてなし。
聞書第一 〇一七五 忠臣は孝子の門に尋ねよ、孝行に精出す人は稀である 現代語訳 一、忠臣は孝行者の家を探せと言われている。随分と心を尽くして孝行すべきだ。親が亡くなった後で心残りが多い事もあるだろう。奉公に精を出す人は自然に出てくるが、孝行に精を出す人は稀だ。忠孝と言うのは、無理難題を言いつける人、無理難題を言いつける親の元でなければ分からない。よい人には他人も親しくする。松柏は霜後に表れると言う。元政法師は夜明けに魚屋へ行き、包みを衣の中に隠して、母に勧めたそうだ。考えてみても、並みの事ではない。