聞書第一 〇一六八 新義には悪事が出來る、巧者の衆は悪事の基 原文 一、新義と云ふは、よき事にても悪事出來るもの也。年後御參謹前、御側年寄など詮議にて此度將軍宣下に、御能に人多く入り申し候間、御馬廻組の手明槍侍役をさせ、兼々御見知り成さるゝ爲にもよく候とて、數人召連れ候様仕られ候。功者の衆は悪事の基と申し候が、爭論出來、御部屋附羽室大隈など五人浪人仕り候。又侍御見知り成さるゝ爲とて、究役二十人申付けられ候。それより究役の隙これ無き程に悪事多く候。
聞書第一 〇一六八 新義には悪事が出來る、巧者の衆は悪事の基 現代語訳 一、新しい法という物は、良い事でも悪い所が出てくるものだ。ある年の参勤交代前に御側年寄たちが詮議して、今回の将軍宣下で、人手が多くいると言うので、御馬廻り組の手明槍に侍の役をさせて、兼てから御見知りなされる為にもよいといって、数人召し連れなされた。功のある者達は、悪事の基だと言ったが、論争が巻き起こり、御部屋附きの羽室、大隈など五人が浪人の処分を受けた。また、侍を御見知りなさる為といって、見究め役に追加で二十人を申し付けられた。それから見究め役の暇がない程に悪事が多く起こった。