聞書第一 〇一六四 人より一段立上りて見よ、志深き者は欺さるゝが嬉しきもの 原文 一、何事も人よりは一段立上りて見ねばならず。同じあたりにぐどつきて、がたひしと當り合ひになる故はつきりとしたる事なし。何某身上崩しの事を諸人嘲り申し候故、「苦しからざる事にて候に、不運にて残念の事。」と申し候。又、「御主人の御懇も御だましにて候故、有難くも存ぜず。」と申す人候故、「さてさて不當介の人かな、志深き者はだまさるゝが一入嬉しきものにて候。」と、申し聞け候也。
聞書第一 〇一六四 人より一段立上りて見よ、志深き者は欺さるゝが嬉しきもの 現代語訳 一、何事も人よりは一段上に立たねばならない。人と同じあたりでぐだついて、がたひしと当たり合うからはっきりとしないのだ。何某は身の上を崩した事を皆で嘲るから、「どうと言う事は無いが、運が悪く残念だった。」と言った。また、「主人が蔑ろになさるのは、欺かれたようで、有難いとは思えない。」と言うので、「さてさて、道理に合わぬ事を言う人だ、志の深い者は欺かれるのがひとしお嬉しいものだ。」と言い聞かせた。