聞書第一 〇一一〇 諌言は外に知れぬ様に、主人の非を顯す諫言はわるい 原文 一、主人に諫言をするに色々あるべし。志の諫言は脇に知れぬ様にする也。御氣にさかはぬ様にして御癖を直し申すもの也。細川賴之が忠義など也。昔、御道中にて、脇寄遊ばさるべくと仰出され候節、御年寄何某承り、「某一命を捨てゝ申上ぐべく候。段々御延引の上に脇寄など遊ばされ候事、以ての外然るべかざる候。」と、諸人に向ひ、「御暇乞仕り候。」と詞を渡し、行水、白帷子下着にて午前へ罷出でられ候が、追附退出、又諸人に向ひ、「拙者申上げ候儀聞召分けられ本望至極、皆様へ二度目に懸り候儀、不思議の仕合せ。」など廣言申され候。これ皆主人の非を顯し、我が忠を揚げ。威勢を立つる仕事なり。多分他國者にこれある也。
聞書第一 〇一一〇 諌言は外に知れぬ様に、主人の非を顯す諫言はわるい 現代語訳 一、主人に諫言をするときには色々やり方がある。志のある諫言は他の者には知られぬ様にする。お気に触らぬ様にしてお癖を直して差し上げるものだ。細川頼之の忠義などだ。昔、ご道中にて寄り道遊ばされたいと仰せ出された時、年寄りの何某が承って、「それがしの一命を捨てて申上げます。ますます予定より遅れております上に寄り道など遊ばされるのはもっての外でございます。」と言て、諸人に言い、「お暇を頂く。」と言葉わたし、行水し、白帷子下着にて御前へ出られたが、その後退出し、諸人に向かって、「拙者が申上げた件がお聞き入れられ、本望なことこの上ない。皆様へ二度お目に懸れて、不思議な幸せだ。」などと広言された。これは皆、主人の非を表に晒し、自分の忠を上げ、威勢を立てる仕事だ。多くの場合、他国の者にある事だ。