聞書第一 〇一〇四 物に迷ふな、天變地異に迷ふ心から自然悪事も出來て來る 原文 一、常に無き事あれば怪事と云ひて、何事の前表かと云ふは愚かなる事也。日月重出、箒星、旗雲、光物、六月の雪、師走の雷などは、五十年百年間に有る事也。陰陽運行にて出現する也。日の東より出で、西に入るも、常に無き事ならば、怪事と云ふべし。是に替はる事なし。また天變これある時、世上に必ず悪事出來る事は、旗雲見ては何事ぞ有るべしと、人々我と心に怪事を生じ悪事を待つ故に、其の心より悪事出來する也。
聞書第一 〇一〇四 物に迷ふな、天變地異に迷ふ心から自然悪事も出來て來る 現代語訳 一、珍しい事があれば怪事と言い、何事かの前触れかと言うのは愚かな事だ。月日が重なる事、箒星、旗雲、光物、六月の雪、師走の雷などは、五十年、百年間では起こる事だ。陰陽運行にて出現するのだ。日が東から出て、西に入るのも、珍しいならば怪事と言えばいい。違いなどない。また、天に異変がある時、世の中に必ず悪事が起こることは、旗雲をみては何かあるだろうと、人々が自分と心に怪事を生じて悪事を持つので、その心から悪事ができるのだ。