聞書第一 〇〇九二 奉公人の打留は浪人か切腹に極りたると覺悟せよ 原文 一、何某申し候は、「浪人などと云ふは難儀千萬此の上なき様に皆人思うて、其期には殊の外しほがれ草臥るゝ事なり。浪人して後は左程にはなきものなり。前方思うたるとは違ふ也。今一度浪人仕度し。」と云ふ。尤もの事也。死の道も、平生に死に習うては、心安く死ぬべき事也。災難は前方了簡したる程には無きものなるを、先を量つて苦しむは愚かなる事也。奉公人の打留は浪人切腹に極りたると、兼ねて覺悟すべき也。
聞書第一 〇〇九二 奉公人の打留は浪人か切腹に極りたると覺悟せよ 現代語訳 一、何某が言う事には、「浪人などと言うのは難儀千万である事この上ない様に皆思っていて、そうなった時には、ことのほか落ち込んでくたびれてしまう。浪人してから後は、さほどでも無い。前もって考えていたのとは違う。今一度浪人したいものだ。」と言う。もっともな事だ。死の道も、普段から死んだつもりになっていれば、安心して死ぬことだろう。災難は前もって考えているほどでは無いもので、先を量って苦しむのは愚かな事だ。奉公人の終わりは浪人、切腹に極まると、兼ねてより覚悟するべきである。