聞書第一 〇〇八三 武士は平生にも人に乗越えたる心でなくてはならぬ 原文 一、中道は物の至極なれども、武邊は、平生にも人に乗越えたる心にてなくてはなるまじく候。弓指南に、左右ろくのかねを用ふれども、右高になりたがるゆゑ、右低に射さする時、ろくのかねに合ふ也。軍陣にて、武功の人に乗越ゆべしと心掛け、強敵を討取るべしと、晝夜望みを掛くれば、心猛く草臥もなく、武勇を顕す由。老士の物語也。平生にも、心得あるべき也。
聞書第一 〇〇八三 武士は平生にも人に乗越えたる心でなくてはならぬ 現代語訳 一、極端な概念に偏らない立場にある物は至極であるが、武辺は、普段から人を乗り越える心が無くてはならない。弓指南に、左右の正しい姿勢をとるが、右が高くなりたがるので、右を低くして射る時、正しい姿勢に合う。軍陣にて、武功のある人を乗り越えると心掛け、強敵を打ち取ると、昼夜望みを掛ければ、心猛々しくくたびれることなく、武勇を表すとの事。老士の物語である。普段から心得るべきである。