聞書第一 〇〇六一 活きた面は正念のとき、萬事をなす内に胸に一つ出來る物がある 原文 一、「人として肝要に心がけ、修行すべき事は何事にて候や。」と問はれ候時、なんと答へこれあるべきや。先づ申して見るべし。只今正念にして居る様にになり、諸人心が抜けてばかり見ゆるなり。活きた面は正念の時也。萬事をなす内に、胸に一つ出來る物ある也。これが君に對して忠、親には孝、武には勇、その外萬事につかはるゝもの也。これを見附くる事も成り難し。見附けて不斷持つ事又成り難し。只今の當念より外はこれなき也。
聞書第一 〇〇六一 活きた面は正念のとき、萬事をなす内に胸に一つ出來る物がある 現代語訳 一、「人として肝心で、修業すべき事とはどんな事か。」と問われた時、何と答えるべきか。まず述べてみよう。それはただ今の正しい心であり、皆気を抜いてばかりに見える。活きた面構えに成るのは正念の時である。様々な事を為すうちに、胸に一つできる物がある。これが主君に対しての忠、親に対しては考、武には勇、その外すべてに使える物である。これを見つけるのは難しい。見つけて普段から保つことも難しい。ただ今のこの念の他は無いのである。