聞書第一 〇〇六〇 山本神右衛門の敎訓「一方見れば八方見る」其他の條々 原文 一、山本神右衛門、常に申し候詞數ヶ條書留め候内。 一、一方見れば八方見る。 一、すら笑ひする者は男はすくたれ、女はへらはる。 一、口上又は物語などにても、物を申し候時は、向ふの目と見合ひて申すべし。禮は初めにして濟むなり。くるぶきて申すは不用心也。 一、草紙書物を取扱ひ候へば、即ち焼き捨て申され候。書物見るは公卿の役、中野一門は樫木握つて武邊する役と申され候。 一、組附かず、馬持たぬ侍は侍にてなし。 一、曲者は頼もしき者。 一、朝は七ツに起き日行水、日さかやき。食は日の出に食べ、暮より休み申され候。 一、士は喰わねども空楊枝。内は犬の皮、外は虎の皮。
聞書第一 〇〇六〇 山本神右衛門の敎訓「一方見れば八方見る」其他の條々 現代語訳 一、山本神右衛門が常に言っていた事を、数箇条書き留める。 一、一方が見れば八方が見える。 一、あいそ笑いする者は男は汚く、女は淫ら。 一、口上や物語などでも、物を言う時は、相手と目を見合って物を言え。礼は最初だけで済むものではない。俯いて物を言うのは不用心。 一、袴の下に手を入れるのは不用心。 一、本や書物を取り扱う時は、すぐに焼き捨てろ。書き物を読むのは公卿の役目で、中野一門は樫の木握って武辺する役目だと言われた。 一、組に付かず、馬を持たない侍は侍では無い。 一、剛の者は頼もしい者。 一、朝は四時に起きて毎日行水、毎日さかやきを剃る。食事は日の出に食べ、日が暮れたら休め。 一、士は喰わねども空楊枝。内は犬の皮、外は虎の皮。