聞書第一 〇〇五七 人前で高言を吐くな、「侍たる者は先づ禮儀正しきこそ美しきけれ」 原文 一、「何某は氣情者なり、何某の前にて斯様の儀を申し候。」と話す人あり。其れが面に似合はぬ言分也。曲者と云はれたき迄也。卑い位也。青き所がある人と見えたり。侍たる者は、まづ禮儀正しきこそ美しけれ。其の様に、人の前にて物を云ふは槍持中間の出會い同然にて賤しき事也と。 居宅、衣装、諸道具等つらに似合はぬ事する人多し。扇、鼻紙、料紙、臥具などは、少しよき物にても苦しからざる也。
聞書第一 〇〇五七 人前で高言を吐くな、「侍たる者は先づ禮儀正しきこそ美しきけれ」 現代語訳 一、「何某は気情者だ、と何某の前でこの様な事を言ってやった。」と話す人がいた。「それが面に似合わない言い分だった。剛の者と言われたいだけだ。卑しい者だ。青いところのある人のようだ。侍たる者は、まず礼儀正しい事こそ美しい。そのように人前でものを言うのは槍持ち仲間の挨拶同然で卑しい事だ。」と常朝殿は言われた。 住居、衣装、諸道具など、面に似合わぬ事をする人が多い。扇、鼻紙、料紙、寝具などは、少し良い物を使っても見苦しくない。