聞書第一 〇〇五三 柳生流の抜出しを見習ふに及ばぬ、鍋島の刀は落差 原文 一、昔人の刀は落差に仕り候。今時の刀の差し様、吟味する人これなく候。柳生流には抜出して差させ候由申し候。それを相傳もなく、何の了簡もなく、抜出を見習うて差し申すと相見え候。直茂公勝茂公も落差に遊ばされ候由。其の時代手覺えのある衆、皆落差に仕り候上は、利方よしと相見え候。先づ抜出しては不圖取られさうに思はれ候。光茂公は勝茂公の御差圖にて、落差遊ばされ候由。
聞書第一 〇〇五三 柳生流の抜出しを見習ふに及ばぬ、鍋島の刀は落差 現代語訳 一、昔の人の刀は、落とし差しであった。今時の刀の差し方は、吟味する人がいない。柳生流では抜き出して刺させる様にとの事だ。それを伝授されたわけでもなく、何の考えも無しに、抜き出しを見習って差しているように見える。直茂公勝茂公も落とし差しになさっていた。その時代の腕に覚えがある衆は、皆落とし差しにしており、利があると見える。まず、抜き出していては不意に取られそうに思える。光茂公は勝茂公のお指図で、落とし差しになさっていたとの事である。