聞書第一 〇〇五〇 誤ある者を捨てるな、誤の一度もない者は却つて危い 原文 一、何某立身御詮議の時、此の前大酒仕り候事これあり、立身無用の由衆議一決の時、何某申され候は、「一度誤これありたる者を御捨てなされ候ては、人は出來申すまじく候。一度誤りたる者は、其の誤を後悔致すべき故、随分嗜みて御用に立ち申し候。立身仰付けられ然るべき。」由申され候。何某申され候は、「其方御請合ひ候や。」と申され候。「成程某請に立ち申すべし。」と申され候。其の時何れも、「何を以って請に御立ちなされ候や。」と申され候。「一度誤りたる者に候故、請に立ち申し候。誤一度もなき者は、あぶなく候。」と申され候に付て、立身仰付けられ候由。
聞書第一 〇〇五〇 誤ある者を捨てるな、誤の一度もない者は却つて危い 現代語訳 一、何某の立身詮議の折に、この前大酒を飲んだとの事で、立身は無用であると議決されようとした時、何某が言うには、「一度過ちを犯した者をお捨てなさっては、人が育たない。一度過ちを犯したものは、その誤りを後悔するので、随分気を付けて役に立つ。立身を仰せ付けて然るべきである。」との事。何某は、「その方、請け合うか。」と言った。「なるほど、請て立とう。」と返事をした。その時いずれも、「なぜ、請け合うのか。」と尋ねた。「一度過ちを犯したものゆえ、責任を取るのだ。一度も過ちを犯したことのない物は危ない。」と言ったので、立身仰せ付けられたとの事。