聞書第一 〇〇四六 直茂公壁書「大事の思案は輕く」とは平素思案を定め置く事 原文 一、直茂公の御壁書に「大事の思案は輕くすべし。」とあり。一鼎の註には、「小事の思案は重くすべし。」と致され候。大事と云ふは、二三箇條ならではあるまじく候。これは、平生に詮議して見れば知れて居る也。これは前廉に思案し置きて、大事の時取出して輕くする事と思はるゝ也。兼ては不覺悟にして、其の場に臨んで輕く分別する事も成り難く、圖に當る事不定也。然れば兼て地盤をすゑて置くが、「大事の思案は輕くすべし。」と仰せられ候箇條の基と思はるゝ也。
聞書第一 〇〇四六 直茂公壁書「大事の思案は輕く」とは平素思案を定め置く事 現代語訳 一、直茂公の御壁書に「大事の思案は軽くすべし。」とある。一鼎の註では、「小事の思案は重くすべし。」となされた。大事というのは、二、三箇条程度ではないだろう。これは普段から詮議してみれば分かる。これは前もって思案して置いて、大事の時取り出して軽くすることと思われる。兼ねてから覚悟をせずに、その場に臨んでは軽く分別する事は難しく、思った通りうまく行か分からない。だからこそ兼ねてから地盤を固めておくことが、「大事の思案は軽くすべし。」と仰せられた箇条の基だと思われる。