聞書第一 〇〇三八 禁酒は酒癖が悪いかと思はれる、二三度すてゝ見せるが良い 原文 一、何某の主人、初知入りの供に參り候由。それに付き、「今度の覺悟にて、所在にて酒だらけたるべく候間、酒を仕切り申すべしと存じ候。それも、禁酒と申し候ては、酒癖にても有る様に候間、『あたり申す』と申して二三度捨てゝ見せ申すべく候。其の上にては、人も強ひ申すまじく候。又隋分禮を腰の痛む程仕り、人の云ひ掛けざる時に、一言も物を申すまじくと存じ候。」と語り申され候。魂の入りたる者に候。先の事を前方に分別する所が人の上をする基也。それ故、「尤もの覺悟にて候。其方は虚勞下地が前方に見替へておとなしくなりたりと、云わるゝ程にいたされよ。初口が大事にて候。」と申し候由也。
聞書第一 〇〇三八 禁酒は酒癖が悪いかと思はれる、二三度すてゝ見せるが良い 現代語訳 一、何某の主人の、年賀の共に行ったとの事。それについて、「こた度は覚悟して、所々で酒を出されるk事になるだろうから、酒を頂かない様にするつもりである。禁酒していると言っては、悪い酒癖でもある様なので、『体に障るので』といって二、三度捨ててみせる。それ以上は、人も強いてくることは無いだろう。また随分、礼を腰の痛むほど行い、人に話しかけられない限りは、一言も物を言わないつもりである。」と語った。魂の入った者である。先の事を事前に分別しておくことが人の上を行く基である。それゆえ、「もっともの覚悟である。あなたは苦労して病を得て、以前に比べておとなしくなった、と言われるほどに致しなさい。初口が大事だ。」と言ったとの事である。