聞書第一 〇〇三五 生きながら幽靈となつて二六時中主君を守り國家を固めよ 原文 一、今時の奉公人を見るに、いかう低い眼の着け所也。スリの目遣ひの様也。大方、身のための欲得か、利發だてか、又は少し魂の落着きたる様なれば、身構へをするばかり也。わが身を主君に奉り、速やかに死に切って幽靈となりて、二六時中主君の御事を歎き、事を整へて進上申し、御國家を固むると云ふ所に眼を着けねば、奉公人とは言はれぬ也。上下の差別あるべき様なし。此のあたりに、ぎしと居座りて、神佛の勧めにても、少しも迷はぬ様覺悟せねばならず。
聞書第一 〇〇三五 生きながら幽靈となつて二六時中主君を守り國家を固めよ 現代語訳 一、今時の奉公人を見ると、目の付け所が低い。スリの目使いのようだ。大方、自分の為の欲得か、利口に見せるか、または少し魂が落ち着いている様でも、身構えてばかりだ。わが身を主君に捧げて、速やかに死にきって幽霊となって、二六時中主君の事を案じて、事を整えて上進し、国家を固めると言う所に目を付けなければ、奉公人とは言えない。上下の違いはない。このあたりに、ぎしっと居座って、神仏の薦めにても、少しも迷わない様に覚悟しなければならない。