聞書第一 〇〇三三 金立山の雨乞神事浮立に不吉の喧嘩で權現の御祟り 原文 一、正徳三の春、雨乞詮議の時、會所にて金立山へ雨乞とて毎年度々の浮立上下の雜作也。此の度隋分浮立を念入れ、若し驗なくば重ねて無用と候て、成程結構の三十三囃子、踊狂言など仕入れ申し候。金立の雨乞は前々より不思議の靈驗にて候。此の度は嘗て驗これなく候。其の日大太鼓打ち候者、無相傳に打ち候とて、傳授の者撥をもぎ取り申し候末にて喧嘩に及び、下宮にて切合ひ打合ひ、死人も出來、又見物人にも喧嘩出來、手負ひこれあり候。其の頃下々の説に今度の浮立、會所方の御詮議實なき事故、權現御祟りにて悪事其の場に出來候と申扱ひ候。「神事の場の不吉は前表に成る事あり。」と、實敎卿話にて候。考へ候へば、此の年の内に會所役者奸謀にて數人斬罪、寺井邊津波にて死亡多し。海邊に金立の下宮これある由。又殿中にて原郎左衛門討果しあり。斯様の事共いかゞと存ぜられ候也。
聞書第一 〇〇三三 金立山の雨乞神事浮立に不吉の喧嘩で權現の御祟り 現代語訳 一、正徳三年の春、雨乞い詮議の時、会所では金立山へ雨乞いで毎年度々、浮立(太鼓を打ち鳴らして集団で踊る伝統芸能)を行うので上の者にも下の者にも手間がかかる。この度は特に浮立に念を入れ、もし効果がなければ繰り返し行う必要はないものとするとして、なるほど大勢の三十三の囃子、踊り狂言などを仕入れた。金立の雨乞いは前々から人知を超えた霊験がある。この度は効果がなかった。その日の太鼓を打っていた者が、伝承にない打ち方をしたとして、伝授した者がバチをもぎ取って喧嘩になり、下宮で切り合い、打ち合い、死人も出て、また見物人にも喧嘩が起きて、怪我人が出た。その頃、下々の噂では今回の浮立は、会所方の詮議に実がなかったので、権現様の祟りがあって悪事がこの場に起こったのだと言う。「神事の場で不吉なことが起こると、それが前触れであることがある。」とは實敎卿の御話である。考えてみれば、この年の内に会所役が奸謀で数人が断罪され、寺井邊津波にて多くの人が死亡した。海辺に金立の下宮がある。また、殿中で原郎左衛門が討ち果たされた。この様な事はどのように考えられるだろうか。