聞書第一 〇〇二五 心安い人も慇懃に取合ふが侍の作法、恥じしむるは作法でない 原文 一、請役所にて、何某へ町方何某訴状を渡すべしと申し候時、請取るまじきと申し候を、色々申合ひ候處、何某居合はせ、「まづ請取り置き候て、無用と候はゞ返し申され候へかし。」と申し候に付いて、「さらば請取り置くべし。」と申し候時、「請取らする物を請取らずに置く事がなるものか。」と、いやしめ申され候由、話す人あり。何某は最早直りたるかと思いたれば、いまだに角がをれず。總じて心安き人にても、役所役所にて慇懃に取合ふが士の作法也。左様に恥しめ候事、きたなき仕方、士の作法にあらずと也。
聞書第一 〇〇二五 心安い人も慇懃に取合ふが侍の作法、恥じしむるは作法でない 現代語訳 一、請役所にて、何某へ町方の何某から訴状を渡そうとしたところ、受け取らないと言うので、いろいろ言い合っていた所に、何某が居合わせて、「まず受け取っておいて、無用と判断すれば返せば良いでは無いか。」と申したところ、「ならば受け取って置こう。」と言ったので「受け取ったものを、受け取って置いただけで良いわけがない。」と文句を言ったと話す人があった。何某はもはや直ったと思っていたが、いまだに角が取れていない。総じて親しい人でも、役所役所で礼儀正しく取り合うのが侍の作法である。そのように辱めることは、汚く侍の作法ではない。