聞書第一 〇〇二一 前方に極め置くが覺くの士、穿鑿せぬは不覺の士 原文 一、覺の士、不覺の士といふ事、軍學に沙汰あり。覺の士といふは、事に逢うて仕覺えたるばかりにてはなし。前方に。それぞれの仕様を吟味し置きて、その時に出合ひ、仕果するをいふ。されば、萬事前方に極め置くが覺の士也。不覺の士といふは、その時に至つては、たとへ間に合はせても、これは時の仕合はせ也。前方穿鑿せぬは、不覺の士と申し候也。
聞書第一 〇〇二一 前方に極め置くが覺くの士、穿鑿せぬは不覺の士 現代語訳 一、覚の士、不覚の士という事が、軍学にて論じ進められている。覚の士というのは、大事な場面で経験があると言うだけではない。事前に、それぞれの仕様を吟味しておいて、その時になって、やり遂げる者を言う。そうであれば、万事において事前に極めておくのが覚の士である。不覚の士というのは、その時に至って、たとえ間に合わせても、これはその場しのぎである。前もって詳しく調べておかないのは不覚の士と言う。