聞書第一 〇〇一八 客に行かばよき客振り、飽かれもぜず早くも歸らぬように 原文 一、翌日の事は前晩よりそれぞれ案じ書附け置かれ候。これも、諸事人より先にはかるべき心得也。何方へ兼約にて御出での節は、前夜より、向様の事を萬事萬端、挨拶話、時宜等の事を案じ置かれ候。何方へ御同道申し候時分、御話に何方に参り候時は、先づ亭主の事をよく思入りて行くがよし。和の道也。禮儀也。又貴人などより呼ばれ候時、苦労に思うて行けば座附出来ぬもの也。偖々忝なき事かな、さこそ面白かるべきと思入りて行きたるがよし。總じて用事の外は、呼ばれぬ所に行かぬがよし。招請に逢はゞ、偖もよき客振りかなと思わるゝ様にせぬは客にてはなし。いずれその座のすべを前方より服して行くが大事也。酒などの事が第一也。立ちしほが入つたもの也。飽かれもせず、早くも歸らざる様にありたき也。又常々の事にも馳走など斟酌を仕過ごすも却つてわるき也。一度二度云うて、その上には、それを取持ちたるがよし。不圖行掛りて留めらるゝ時などの心得も、此くの如き也。
聞書第一 〇〇一八 客に行かばよき客振り、飽かれもぜず早くも歸らぬように 現代語訳 一、翌日の事は前の晩よりそれぞれに考えて書き付けておく。これも諸事において、人よりも先に図るべき心得である。いずこかへ呼ばれて出向く折には、前の夜から、向こう様の事を万事万端、挨拶話、その場にふさわしい礼儀等の事を良く考えて置く。いずこかへ、お供する時、御話に参る場合は、まず亭主の事を良く考えて行くと良い。和の道だ。礼儀である。また、貴人などから呼ばれたとき、苦労だと思って行けば座が持たない物だ。さてさて、かたじけない事だ、さぞ面白いだろうと思い込んで行くと良い。総じて用事がある時以外は、呼ばれていない所に行かない方が良い。招待されれば良い客だと思われる様にしない客は客ではない。いずれもその座の事を事前に理解して行くが事が大事だ。酒などの事が第一だ。帰り時が難しい。飽きられもせず、早く帰りすぎない様にしたいものだ。また常々の事だが御馳走を気を使い遠慮しすぎるのも、かえって悪い。一度二度断って、それ以上は受けるのが良い。ふと行きがかって引き留められた時などの心得も同様である。