聞書第一 〇〇一六 山本常朝若年の頃、澤邊平左衛門を介錯して褒めらる 原文 一、澤邊平左衛門を介錯いたし候時分、中野數馬江戸より褒美状遣はし、「一門の外聞を取り候。」と、事々しき書面にて候。介錯の分にて、斯様に申し越され、候事餘りなる事と、其の時分は存じ候へども、其の後よくよく案じ候へば、老功の仕事と存じ候。若きものには、少しの事にても武士の仕業を調へ候時は褒め候て氣を附け、勇み進み候様仕る爲にてあるべく候。中野将監よりも、早速褒美状参り候。両通ながら直し置き候由也。五郎左衛門よりは鞍鐙を送り申し候也。
聞書第一 〇〇一六 山本常朝若年の頃、澤邊平左衛門を介錯して褒めらる 現代語訳 一、澤邊平左衛門を介錯した時、中野數馬が江戸より、「一門の体面を保った。」と、仰々しい書面であ褒美状遣わした。介錯の事で、この様に言っていただき余りある事と、その時は思ったが、その後よくよく考えてみると、褒めるのも老功の仕事であると思う。若者には、少しの事でも武士の仕事をうまくととのえた時は褒めて気付けをし、勇み進む様にする為であった。中野将監からも、早速褒美状が来た。褒美状は両方とも直し置いている。五郎左衛門からは鞍鐙を送って戴いた。