聞書第一 〇〇一五 浪人しても上を怨むな、我が非を知らねば歸參出來ぬ 原文 一、何某に意見の事、口達。浪人の身にて、上を怨み候事。何某浪人内實に非を知り候が、五六年目に歸参のこと。前方仰付御断り、二度目に御請誓詞の事。最初御断りにて崩すか剃髪にて崩すかの時は見事に候事。同筋にて浪人の事。斯様の我が非を存ぜざる間は歸參有るまじき事。今にも御情無きの、誰がにくい者などと計り、胸をこがし候て楢天道の悪みを受くる也。何某の評判に、御罸よと申されたると也。人のがさぬ也。罪一人に有りと思ひ返され候へ。歸參程あるまじと申し候由。
聞書第一 〇〇一五 浪人しても上を怨むな、我が非を知らねば歸參出來ぬ 現代語訳 一、何某に意見をした時の事、口達。浪人の身となって、上を恨んだ。その後、何某浪人は自分に非があることを知ったので、五、六年目に帰参したとの事。最初の仰せ付けを断り、二度目お請けし誓詞を行った。最初に断った折に帰参しないか、頭を丸め出家するかとなった時は見事であった。同様に浪人している人の事。この様に自分に非があることが判らない間は帰参することは有るまじき事だ。今だにお情けがないだの、誰が憎いなどと言って、胸を焦がしても天道の悪みを受ける。何某の噂で罰が当たったのだと言ったとの事。人は見逃さない。罪は自分一人にあると思って考え直しなさい。帰参は直ぐにはできない旨、申し述べた。