聞書第一 〇〇一四 人に意見をし、諸人一味同心に主君の御用に立つが大慈悲 原文 一、人に意見をして疵を直すと云ふは大切の事、大慈悲、御奉公の第一にて候。意見の仕様、大いに骨を折ること也。人の上の善悪を見出すは安き事也。それを意見するも安き事也。大かたは、人の好かぬ云ひ憎き事を云ふが親切の様に思ひ、それを請けねば力に及ばざる事と云ふ也。何の益にも立たず。人に恥をかゝせ、悪口すると同じ事也。我が胸はらしに云ふまで也。意見と云ふは、先づその人の請くるか請けぬかの氣をよく見分け、入魂になり、此方の言葉を兼々信仰ある様に仕なしてより、好きの道などより引入れ、云ひ様種々に工夫し、時節を考へ、或は文通、或は暇乞などの折か、我が身の上の悪事を申し出し、云はずしても思ひ當たる様にか、先づよき處を褒め立て、氣を引立て工夫を碎き、渇く時水飲む様に請合はせ、疵直るが意見也。殊の外仕にくきもの也。年来の僻なれば、大體にて直らず、我が身にも覺えあり。諸朋輩兼々入魂をし僻を直し、一味同心に御用に立つ所なれば御奉公大慈悲也。然るに恥を與へては何しに直り申すべきや。
聞書第一 〇〇一四 人に意見をし、諸人一味同心に主君の御用に立つが大慈悲 現代語訳 一、人に意見をして良くない点を直すと言う事は大事であり、大慈悲、ご奉公の第一である。意見の仕方は、大変苦労する。人のやる事の善悪を見い出すのは簡単だ。それに意見を言うのも簡単な事だ。大方は、人が好まない言いにくい事を言うのが親切の様に思い、相手がそれを受け入れなければ力が及ばなかったと言う。それでは何の役にも立たない。人に恥をかかせて悪口を言うのと同じだ。自分の憂さ晴らしに言っているだけである。意見と言うものは、まずその人が受け入れる気がある、受け入れる気がないかを良く見分け、親しくなり、こちらの言葉をかねがねから信頼するようにしてから、好む話から引き入れて、言い方を様々に工夫し、時節を考えて、あるいは手紙で、あるいは休みの時などに、わが身の悪い所を打ち明け、言わなくても思い当る様にか、先に良いところを褒めておき、気を引き立てて工夫を凝らし、渇いたのどで水を飲むように受け入れさせ、良くない点が直るのが意見だ。ことのほか難しいものである。長年の癖であれば、大概は直らず、我が身にも覚えがある。友や先輩、後輩とかねがねから親しくして癖を直し、一味同心で御用に立つなら御奉公、大慈悲である。しかるに、恥をかかせてはどうして直るものも直らない。