聞書第一 〇〇一〇 道具仕舞物の取合ひは見苦し、鼻の先許りの奉公 原文 一、御道具を仕舞物にて取りがちに仕られ候。是にて了簡仕られ候へ、賴まれぬ心入也。御秘蔵御寵愛にて、七重八重の袋箱に入れたる御道具共を値段附けをして奪い取り、主君の御魂入れられたる物を我々の家内道具に使ふ事勿體至極もなき事ぞかし。御罰を蒙らずとも、心よく有る事は了簡に及ばざる事也。鼻先許りの奉公、君臣の義理はなき事也。
聞書第一 〇〇一〇 道具仕舞物の取合ひは見苦し、鼻の先許りの奉公 現代語訳 一、御道具が払い下げられたときは取り合いになりがちである。これはよく考えなされ、頼りにされない心入れである。御秘蔵や御寵愛を受けて、七重八重の袋や箱に入れられた御道具を値踏みして奪い取り、主君の魂が入った物を我々の家内道具に使うのは、至極もったいない事ではないか。罰が当たらなくても、気持ちの良いものではないことは、良く考えなくても分かる事だ。鼻先ばかりの方向では、君臣の義理は無い。