聞書第一 〇〇〇七 相良求馬は御主人と一味同心に勤めたる者、一人當千の士 原文 一、相良求馬は、御主人と一味同心に、死身に成りて勤めたる者也。一人當千といふべし。一とせ、左京殿水ヶ江屋敷にて大詮議あり、求馬切腹との沙汰也。其の頃大崎に多久縫殿下屋敷三階の茶屋あり。是を借受けて佐賀中の徒者共を集め、あやつりを企て、求馬人形をつかひ、毎日毎夜酒宴遊興、左京殿屋敷を見おろし、大さわぎ仕り候。これ難に進み、御爲に望んで腹を切る覺悟、いさぎよき事ども也。 一、勝宮企み、内引入れられ、筆取り也。後押込の詮議に及んで、内一分を達し、座を立ち、直ちに山居也。 一、諸組に御家中より觸達有り、何れも存寄これなしと申出で候。勝宮両組より申出で候。組中列座詮議の時、大隈次兵衛一分申達し、「同意仕らず。」と申し候。其の時御臺所役也。正左衛門「同意ぞ。」と申し、寄親と争論に及びしを引分け候。正左衛門は伯父也。次兵衛は正左衛門聟也。次兵衛寄親不首尾也。正左衛門心遣にて、御部屋住勤め申し候。後に「忠節の者に候間、取立てられ候様に。」と仰せ遣はされ、百石下され候。 一、峯五郎左衛門噂に付て、御目付朝倉傳左衛門言上す。後に御父子様よりの御書、御部屋様御筆、傳左衛門忠心御感、三度の咎は御免なさるべき旨遊ばされ下され候。 一、大詮議打崩し、彼の両人引入り申され候。
聞書第一 〇〇〇七 相良求馬は御主人と一味同心に勤めたる者、一人當千の士 現代語訳 一、相良求馬は、ご主人と一味同心に、死に身になって奉公した者である。一人当千と言うべきだろう。在る時、左京殿水ヶ江屋敷にて大詮議があり、求馬切腹との沙汰となった。その頃、大崎に多久縫殿下屋敷三階の茶屋があった。これを借り受けて佐賀中のならず者達を集め、人形浄瑠璃を開催し、求馬自らが人形を使って、毎日毎夜酒宴遊興を行い、左京殿屋敷を見おろして、大騒ぎをした。これはが咎められ、主君の為に自ら望んで腹を切る覚悟、潔いことである。 一、勝(大木勝左衛門知昌)と宮(岡部宮内重利)が企み、内(鍋島内記種世)が引き入れられ、筆を取って意見などを書いた。後に外出を禁止し取り調べて詮議に及んで、内が意見を言い、座を立ち、直ちに山に隠居した。 一、諸組に御家老中よりお達しがあり、いずれも思い当るところがないと申しでた。勝と宮の両組より申し出た。組中列座詮議の時、大隈次兵衛が「同意しない」と述べた。その時、御台所役であった。正左衛門「同意だ。」と述べて、寄親と良い争いになったのを引き離して止めた。正左衛門は伯父である。次兵衛は正左衛門の婿である。次兵衛と寄親の意見が食い違った。正左衛門は心遣いにて、御部屋住を勤めた。後に忠節の者であるから、取立てられるべきだ。」と仰せ遣はされ、百石下された。 一、峯五郎左衛門が評判について、御目付朝倉傳左衛門に言上した。後に御父子様よりの御書、御部屋様御筆、傳左衛門忠心御感、三度の咎は許されるべき旨下された。 一、大詮議が終了し、彼の両人引入れられた。