聞書第一 〇〇〇四 胸に四誓願を押立て、私を除いて工夫すれば外れはない 原文 一、生附きによりて、即座に智慧の出づる人もあり、退ひて枕をわりて案じ出す人もあり。この本を極めて見るに、生附の高下はあれど、四誓願に押當て、私なく案ずる時、不思議の智慧も出づる也。皆人、物を深く案ずれば、遠き事も案じ出す様に思へども、私を根にして案じ廻らし、皆邪智の働きにて悪事となる事のみ也。愚人の習ひ、私なくなること成りがたし。さりながら、事に臨んで先づ其の事を差置き、胸に四誓願を押立て、私を除きて工夫をいたさば大はづれあるべからず。
聞書第一 〇〇〇四 胸に四誓願を押立て、私を除いて工夫すれば外れはない 現代語訳 一、生まれつきで、即座に知恵の出る人もおり、退いて考え込んで案を出す人もいる。この本質をきわめて見てみると、生まれつきの差はあっても、四請願に押し当てて、私なく案じる時は、人知を超えた知恵が出る。人は皆、物を深く考えれば、遠くにある考えも案じだせるように思えるが、私に根ざして案じ巡らせば、すべて邪な知恵が働き悪事となるだけである。愚かな人は常々、私をなくすことが難しい。それでも、事に臨んで先ずそのことを差し置いて、胸に四請願を押し立て、私を除いて工夫をすれば大きく外れることは無いであろう。