聞書第一 〇〇〇三 不調法でも、只管主人を歎く志さへあれば御賴み切りの被官 原文 一、奉公人は一向に主人を大切に歎くまで也。これ最上の被官也。御當家御代々、名誉の御家中に生まれ出で、先祖代々御厚恩の儀を浅からぬ事に存じ奉り、心身を擲ち、一向に歎き奉るばかり也。此の上に智慧 藝能もありて相應相應の御用に立つは猶幸也。何の御用にも立たず、不調法千萬の者もひたすらに歎き奉る志さへあれば、御賴み切りの御被官なり智慧藝能ばかりを以って御用に立つは下段也。
聞書第一 〇〇〇三 不調法でも、只管主人を歎く志さへあれば御賴み切りの被官 現代語訳 一、奉公人は偏に主人を大切に思い案じるだけである。これが最高の家来である。御当家は代々、名誉ある家中に生まれ、先祖代々の御厚恩があることを浅からぬ恩と存じ奉り、心身を投げ打ち、偏に案じ申し上げるだけだ。この上に、知恵も芸能もあって相応しいお役に立てば尚よい。何の役にも立たず、行き届かない未熟な者でも、ひたすらに主人を案じ奉る志さえあれば、頼りになる家臣である。知恵や芸能だけで役に立つのはその下である。