聞書第一 〇〇〇二 道は死ぬ事、毎朝毎夕常住死身になれ、家職を仕果す 原文 一、武士道といふは、死ぬ事と見附けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬ方に片附くばかり也。別に仔細なし。胸据わって進む也。圖に當たらぬは犬死などといふ事は、上方風の打上がりたる武道なるべし。二つ二つの場にて圖に當たるやうにする事は及ばざる事也。我人、生くる方が好き也。多分好きの方に理が附くべし。若し圖にはづれて生きたらば腰抜け也。この境危うき也。圖にはづれて死にたらば、犬死氣違也。恥にあらず。これが武道に丈夫也。毎朝毎夕、改めては死に、改めては死に、常住死身なりて居る時は、武道に自由を得、一生落度無く、家職を仕果すべき也。
聞書第一 〇〇〇二 道は死ぬ事、毎朝毎夕常住死身になれ、家職を仕果す 現代語訳 一、武士道とは、死ぬ事であると見いだした。命を懸けた二者択一の場面において、早く死ぬ方を選択するだけだ。特に詳細など無い。胸を据えて進むのだ。目的を達成できなければ犬死であるなどと言うのは、上方風の思い上がった武士道である。命を懸けた二者択一の場面において、目的を達成できるかどうかなど及びもつかない。人は生きる方を好む。大方、好む方に頭が働く。もし目的を達成できず生き長らえたならば腰抜けである。この境は危うい。目的を達せずに死んだなら、それは犬死気違いだ。恥ではない。これが武道に立派な男である。毎朝毎夕、改めては死に、改めては死に、常に死に身として居るときは、武道に自由を得て、一生落ち度なく、家職を全うするであろう。